「海よりもまだ深く」
別れた家族をあきらめきれず
15年前にとった文学賞を勲章に
いまだ目が出ない自称作家は
ギャンブル好きがあだとなり
取材と称してバイトする興信所の仕事で得た他人の弱みに付け込んで日銭を稼ぎ
その日暮らしの生活をしているうらぶれた男
篠田良多
ただ、彼をとりまく人々は
どこか突き放してはいるが温かい
そんなある日
ひょんなことから元家族は
年老いた母の暮らす公営アパートの4階の一室で
台風の襲う夜を明かすことになる
互いの不満や不安やいとおしさを抱えながらも
別れあって初めてそれぞれの心を開きあう
嵐が去ったまぶしいきらめく朝
しかし、それぞれはそれぞれのところへ帰っていく
ただ昨日とすこし違うのは
何も変わらないはずなのに
それぞれの日常にほのかな希望を感じさせるEND
エンドロールが終わって劇場に明かりがついたとき
まったく知らない者同士が少し笑みをたたえながら
出口へいっせいに向かう光景までも織り込んであるかのような
優しい明りに包まれていた
今もまだその余韻が
どこかそのあたりに
ある